「シリーズ画家と戦争(2) 靉光(あいみつ) 時代の自画像」

靉光(あいみつ/本名・石村日郎)は、1907年、広島県に生れた戦前を代表する画家の一人。動物の肉のようにも見える奇妙な物体の中で、一つの眼が異様な光を放ち見る者を凝視する『眼のある風景』。日本のシュルレアリスムの傑作と言われるこの作品は昭和13年、国家総動員法が成立した年に描かれた。虚空を見つめる視線が強烈な存在感を放つ3枚の『自画像』が描かれたのは、戦時中、昭和18年から19年にかけてのことだ。どの作品もその時代を象徴するかのような独特の闇に覆われているが、同時に時代を睨み返すような意思の力を感じさせる。前衛芸術への弾圧が強まる中、戦争画を描かず、『鳥』、『花』、『蝶』などの一連の幻想絵画を描いた靉光。「戦争画を描くのに多くは軍人や大砲を描く。しかしそれが蜂であってもいいじゃないか。自分は戦争の絵を描いているのだ」と語っていたという。
そしてこれらの傑作を残して戦地へと赴いた画家は、終戦を迎えるが戦地で病死する。ふるさとに残されていた作品の多くは原爆で焼失した。昭和の洋画において大きな功績を残し、独自のスタイルを築いた画家は、今年生誕100年を迎える。戦争へ向けてひた走る時流に翻弄されながらも、靉光は何を思い、何を掴もうとしていたのか。靉光の絵筆の軌跡を辿り、戦争によって絶たれた才能を見つめる。

寺田農さん(俳優)

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